みなさま、ご機嫌いかがでしょうか。
音楽ライター まさいよしなりです。
「我ら音楽マサイ族」、今回採り上げますのは今月リリースされたこちらの企画盤です。
プライベート2/石原裕次郎・渡 哲也 (TECE-3633)
石原裕次郎と渡哲也、この二人がプライベートでカラオケを歌っているという、宝物のような音源。実はこれ、ファンの間ではよく知られていました。
福井県にある芦原(あわら)温泉、そこの老舗旅館「べにや」。国登録有形文化財(建造物)として登録されていた由緒ある宿です。石原裕次郎はここを定宿として度々訪れ、温泉を満喫したあとはバーで仲間とカラオケを楽しんでいました。「べにや」の宿泊客は、この時録音された石原裕次郎と渡哲也の「秘蔵」の歌唱音源と、一緒に撮られたたくさんの写真を自由に聴いたり見たりすることが可能だったのです。
ところが2018年、この「べにや」が火災に遭い、全焼してしまいます。写真はほとんど焼失し、金庫の中だった録音テープと、それをコピーしたCD-Rも、熱のため大きなダメージを受けてしまいました。
何とかこの音源を蘇らせたい…との思いから、様々な手を尽くし、ついに復活に成功したのが、このCDに収録されている楽曲の数々というわけです。
あくまでプライベート録音であり、リリースを目的として収録されたものではありませんから、その点はまず割り切っておかなければなりません。当然ながら拍手、手拍子、歓声、会話なども紛れ込んでいますし、曲によってはフルコーラスを歌い切っていないものもあります。
そういった点を差し引いて考えても…いやむしろ、そういった不完全な部分があるからこそ、スターのリアルなプライベートに接することのできる、価値ある記録であると言えるでしょう。
ちなみに収録曲は、石原裕次郎による『小樽のひとよ』『岸壁の母』『ラブユー東京』『長崎は今日も雨だった』など、また渡哲也による『みちづれ』『おまえに』『座頭市』『赤提灯の女』など、昭和の幅広い歌謡曲をそれぞれ歌っていて、とても貴重です。
本盤を音楽ソフトとして万人にお薦めするのは難しいと思われます。しかしファンにとっては、時間という意味でも火災被害という意味でも失いかけた、かけがえのない録音です。さらには未使用写真を100ページに渡って収めたフォトブックもセットとなっており、これはもう往年の石原軍団の輝きを見事に切り取った、究極のコレクターズアイテムなのです。この音源が正規盤として発表されたことは、まさに奇跡です。
なお「べにや」ですが、今年4月に新築工事が完了し、営業を再開する予定となっています。